侖丹徒然。

2016年3月5日開設。趣味について、マイペースに更新予定。音楽、小説、マックなどなど。

読書録)2016年4月〜6月の読書録①

読んだ本

 

  1. 円卓/西加奈子
  2. がらくた/江國香織
  3. かもめのジョナサン/リチャード・パック
  4. 残虐記桐野夏生
  5. 色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年/村上春樹

三行感想

 

  1. 一番のお気に入り。幼少時代を重ねながら読みました。子供の悩みは笑えますが、しかし、現在とまるで無関係とも思えません。
  2. 主婦の話。最近主婦や女性を主人公にした本が好きです。価値観を共有しない関係の中に救いを求める事ってありませんか。
  3. 観念的な寓話といった感じ。西洋人の作品ながら、その背景にあるのはキリスト教やら仏教やら、宗教的立場を超えたものでしょうか。いわば「殉教の精神」みたいな、より高尚な物に対する憧れや、その為に犠牲にする勇気、そんな気がしました。
  4. 少女期に誘拐された経験を持つ女性の精神を描いたもの。この作家さんの男性に対する目線が、刺激的で好きです。しかし本題は多分女性の怖さや強かさにこそあって、それが正直よく分からないんだけど、また読んでみたいと思うのです。
  5. 「人に愛される実感の無い男の話」で、誰かに特別に嫌われる事が無い代わりに、愛される事も出来ない、だから自信が無くて、他人を信じる事もできない。でも自分というのは、決して自分が思っているだけの自分じゃなく、他人はちゃんと自分の深層や、もしくは自分すら知り得ぬ部分を知ってたりする。人を好きになるって不思議で、人から見て自分がどう見えているのかってもっと不思議、そんな事を考えました。

 

お気に入り 円卓/西加奈子

 

2016年で一番感動したのがこの本。
子供の頃の、真剣な悩みや憤りが蘇ってくるのでした。
小学三年生の「平凡な」少女「こっこ」の日常を描いた作品。

満ちている「空気」


事件は起こりません、この本の中に描かれているのは「空気」です。
子供の頃に抱いていた、ある種の万能感や驕り、苛立ちに満ちていて、それが可笑しくもありまた懐かしい。
思春期を描いた作品は世に多いですが、この年代のイライラ感を描いた作品は新鮮でした。
大人になった今思うと、子供の頃は色々なことに悩んでいました。
僕の場合、例えば、死についてだとか。
悩みというより観念的な次元の問題が、ベッドの中でどういうわけか急に頭の中をよぎるのです。
大人の悩みと違って現実の生活を脅かす問題でないというだけで、悩みは悩みです。
そしてその怯えは大人より深刻です。
開き直れるほど悩み抜いた経験の無かったあの頃の僕ら、「脱力」の仕方を知りませんでしたから。
ドイツの児童文学家・ケストナーの「飛ぶ教室」の序文の一節を思い出しました。

確かこんな事を言っていた筈。
「子供の涙が大人の涙より小さいからと言って、子供の悩みが大人より小さいわけではない」。

鮮やかなキャラクター、軽妙な文体


中でも気に入ったのがその文体です。
いや、文体というより西加奈子という作家の「スタイル」かな?
キャラクタを、掘下げるというより、浮彫りにする、それも鮮やかに。
技法として、「キャラクタに、その人物を象徴するキーワードを与える」というもの。
たとえば劇中のキャラ、「ぽっさん」のキーワードは「流暢」。
彼は「吃り」の少年で、何か喋ると「れ、歴史は、く、繰り返すんや」てな具合。
ところが頭の中では「流暢」に言葉を操り、主人公こっこに聡明なアドバイスをくれる。
他にも主人公の家族の一人、祖父の石太は「明朝体」に例えられます。
能天気なこっこの家族の中、どこか異色の存在。
こっこに通じるある種の「意識の高さ」みたいなものの為に、やや孤立気味で、それがあの痩細って見ようによっては神経質な、しかし頑固で気高い明朝体というわけです。